D2Cのパイオニア的企業のディスカッションを通してD2Cトレンドの本質を見つめ、これからのブランドが事業を成長させるヒントを提供するイベント「D2C最前線」。今回は、MEJ、DINETTE、 BASE FOODの3社が登壇、「D2C型マーケティング戦略」をテーマに行われたパネルディスカッションの内容を前編・後編の2回に分けてレポートします!
前半では、各社がマーケティングにおいて顧客の声をどう活用しているのか、3社3様の戦略が存分に語られました!
イベント:D2C最前線とは?
株式会社SUPER STUDIOとアライドアーキテクツ株式会社が共同で開催したセミナーイベント。2020年2月27日にWeb上でのライブ配信形式で実施された。
セッション2「D2C型マーケティング戦略」 パネリスト(五十音順) ・株式会社MEJ 取締役COO 大槻 秀光氏 ・DINETTE株式会社 代表取締役 CEO 尾崎 美紀氏 ・ベースフード株式会社 CMO 斎藤 竜太氏 モデレーター ・アライドアーキテクツ株式会社 CPO兼プロダクトカンパニー長 村岡 弥真人氏
お客様アンケートを事業計画に反映!顧客の声を数値化するMEJのマーケティング戦略 -村岡氏:このセッションではD2Cのマーケティング戦略、D2Cビジネスがどういったマーケティングを行うべきかというところについて掘り下げていきたいと思います。まずはじめに自己紹介をお願いします。
大槻氏: 株式会社MEJの大槻と申します。弊社は「新たなヘルスケア文化を創造する」をミッションに健康食品を中心としたヘルスケアD2Cを行なっています。
商品は主にプラセンタのサプリメントを中心としたエイジングケアシリーズや、先日は新たに「C COFFEE」というダイエット商品のシリーズの展開も始めました。現在私は、経営企画と事業推進、お客様と一番近しいCRM部門も統括してマーケティングを行っています。
株式会社MEJ 取締役 COO 大槻 秀光氏
尾崎氏: DINETTE株式会社の代表の尾崎です。弊社はもともと美容系動画メディア「DINETTE」を運営してきました。そしてメディアのファンを増やし、そこから得た口コミやユーザーボイスをもとに、2019年よりコスメブランドの「PHOEBE BEAUTY UP」を立ち上げました。
メディアのころからSNSを活用したマーケティングに力をいれ、現在はアフィリエイトにも積極に取り組み、リテールでの販売も開始したところです。こうした事業展開はいわゆる「THE D2Cコスメブランド」かなと自負しております。
DINETTE株式会社 代表取締役 CEO 尾崎美紀氏
斎藤氏: ベースフード株式会社でマーケティングを統括しております斎藤と申します。ベースフードは「主食をイノベーションして健康をあたりまえにする」というミッションを掲げ、1食でバランスよく栄養を含むパンやパスタといった主食の「完全栄養食」を開発し、ご提供しています。
現在発売してから約3年くらいで、メインの販売チャネルは自社ECですが、最近はAmazonやOisixなど他社様のプラットフォームでも販売を始めました。今後はリアルな顧客接点を増やしていきたいと考えています。
ベースフード株式会社 CMO 斎藤 竜太氏
-村岡氏:D2C型のマーケティングで特徴的なのが、商品の購入をゴールとして段階的に進んでいくのではなく、顧客の声を起点に商品開発からマーケティングのサイクルを回しながら事業を拡大していく点であると認識しています。もう少し詳しく言うと、まずお客様に商品やブランドを体験してもらい、そこから得たお客様の声からブランド、商品の改良を重ねて事業を拡大していく形です。
従来型のマーケティングは「商品開発」から「購入」まで段階的に進んでいく形をとる場合が多く、D2C型のマーケティングは「体験」を起点としたサイクルをまわしながらその規模を拡大していく形が特徴的である。
-村岡氏:MEJさんは商品企画開発段階において、お客様との接点を活かした面白い取り組みをされているということなんですが、どういった施策に取り組まれているのか教えていただきますか?
大槻氏: 私たちは商品発売の段階からモニターサイトを活用して消費者の方と直接つながり、商品コンセプトや機能への興味度についてご意見をいただく取り組みを行っています。そして、それらのモニターの方の声やアンケート結果と、我々のもつノウハウや分析をかけあわせたシミュレーションを盛り込んで事業計画を作成しています。
商品開発企画では、いかに他社と違う製品にできるのか、新しいジャンルを作れるのかという工夫がとても大切だと考えています。ただ、新しいものであればあるほど、その商品が実際にヒットするのかどうかは若干不安がございます。そこでまず、商品コンセプトが出来上がった段階で、開発と並行して消費者から直接声を聞く取り組みをはじめました。
アンケートでは、新商品について「価格が妥当か」「商品を購入したいか」「どんな点に魅力を感じたのか」などについて質問を行なっています。このアンケートの集計結果をもとに、「価格の妥当性」「是非買いたい率」「購入意欲率」「訴求の伝わりやすさ」などを導きだします。
この数値に、人口分布などの外部データや弊社に蓄積されたノウハウなどを掛け合わせることによって、「その商品がどれくらい売れる可能性を持っているのか」という数値のシミュレーションが可能です。結果が低い項目はコンセプトを練り直し、売れる商品になるよう磨いていきます。
このシミュレーション結果と自社のシュミレーションデータを参考に事業計画へ活用しています。
アンケートの一例と、その結果から導き出す数値。
-村岡氏:初年度の事業計画をお客様と一緒に作っているイメージでしょうか?
大槻氏: はいそうです。実際のターゲット層にアンケートを取る事で、開発予定の商品がどれくらいの潜在能力を持っているかが解れば広告費をかける決断や売上予算も作りやすくなります。
アライドアーキテクツ株式会社 CPO兼プロダクトカンパニー長 村岡 弥真人氏
-村岡氏:こちらはアプローチとしては従来の市場調査とも似ていると思うのですが、一番の差分はどういった点になるのでしょうか?
大槻氏: 敢えてあげるとすると、スピードとコストです。モニターサービスを活用していますので、商品コンセプトが決まった早期の段階でアンケート調査を実施することができます。また、実施から集計まで1週間ちょっとという短期間で実施できるのも大きいです。コスト面も調査会社に依頼するより費用を抑えることができます。
もちろん、調査会社にお願いした場合は時間やコストがかかる分、詳細なレポートがいただけるメリットはあります。ですが、弊社の場合は素早く、コストの負担をかけずに「商品が売れそうかどうか」「ヒット商品にする為には何が足りないか」などのある程度の見通しを立てられるこのやり方が合っていると感じています。
斎藤氏: ちなみにこちらは、商品を出す前にやるシミュレーションだと思うのですが、どのくらい当たるものですか(笑)?
大槻氏: 実際にシミュレーション通りの売り上げまでいくかは、現在計測段階ですのでまだわかりませんが非常にいい結果がでています。分析した結果からある程度起こりえる事が予想出来ており、実際に広告の反応など、予想があたっているものもあります。
例えば30代の層は購入意向が20代の層より高いといったお客様の傾向も、実際に販売してみると定期コースへの移行率が、その年齢傾向に沿っていたりするので、低い層へは具体的に何をしていくか?などそういった面で活用することができています。
斎藤氏: ターゲットを見極めていくのにご活用されているんですね。
大槻氏: はい。また、日々たくさんあがってくる商品企画のどれを採用するのかの判断についても、やはり数字があったほうが判断しやすいなと思っています。このシミュレーションの時点で数字があがらないものは頑張ってもなかなか売れない可能性が高いと思います。
お客様から高く支持されている商品の精度をあげていくことによって、ヒット商品がうまれる可能性も高まるのではと考えています。
全ての起点はお客様の声。SNSを当たり前に駆使するDINETTEのマーケティング戦略 -村岡氏:ありがとうございます。MEJさんの場合、アンケートに基づいたシミュレーションを活用して事業計画を作られているということで、かなりデータドリブン型のマーケティング手法ですよね。一方で尾崎さんのDINETTE、PHOEBE BEAUTY UPはまた少し違ったアプローチかと思うのですが、尾崎さんいかがでしょうか?
尾崎氏: 私たちの場合は商品企画後の調査ではなく、商品企画の段階で、ファンの声をひろい、その声をもとにプロダクトを作り、お客様からのフィードバックをもとにプロダクトを改善していく、というプロセスをとっています。
第一弾としてまつげ美容液を発売しましたが、こちらの商品はInstagramのストーリーズなどを活用してアンケートをとり、「目」に悩んでいる方が多かったという結果から生まれた商品です。また、商品発売後もブランドのSNSアカウントに寄せられた「ブラシが硬いです」とか「液が取りにくかった」などのお声をもとにブラシの大きさや毛の太さの改善を行ってきました。もう、とにかくSNSに感謝です(笑)。
斎藤氏: 確かに、まつげ美容液を第一弾にもってくるってすごくセンスがありますね。
尾崎氏: 有難うございます。例えばリップだと、自分の周りの友人に聞いてもみなそれぞれお気に入りのブランドがあります。でもまつげ美容液のようなニッチな商品だと、「何が好き?」と聞いても答えられない人が多かったんです。
私たちは、ベンチャーだからこそニッチな市場にまず飛び込み、そこでいくつかプロダクトを出すことで、たくさんの人に商品を手にとってもらい、ブランドのファンを増やしていきたいと考えています。そうしていけば、リップなどの王道の商品も手にとってもらえるようなブランドに育っていくのではないかと思います。
斎藤氏: 一つお伺いしたいことがあります。オープンクエスチョンで「どんな商品が欲しいですか?」と聞いてもおそらくまつげ美容液とは答えてもらないと思うのですが、質問設計はどのような工夫をされたのでしょうか?
尾崎氏: 質問の切り口は工夫しました。メイクに関するお悩み、メイクをする前のスキンケアに関するお悩み、自分の顔のパーツで気になる点、異性からどうみられたいかなど、様々な切り口の質問をした結果、一番多いのが目に関するお悩みでした。
そこで私たちのブランドのコンセプト「素の自分を好きになってもらう」にあった素の自分を磨くことができるような目に関するアイテムを色々と調べ、たどり着いたまつ毛美容液を一番最初のプロダクトにしました。
-村岡氏:オウンドメディアのPVやSNSのファンを増やすことが簡単ではないなか、DINETTEさんの場合、アンケートに答えたりリアクションをしてくれる熱狂的ファンを作っています。これって相当難易度が高いことですよね。
尾崎氏: やはり初期から継続し、SNSアカウントで積極的にコミュニケーションを行なってきましたので、アンケートに答えてくれる熱量の高いファンがついてきてくれたのだと思います。
また、メディアに掲載するコンテンツもファンの方に「どんなコンテンツを見たいですか?」と聞いてその意見をもとに作っていますので、「自分のコメントが反映された企画になっていて嬉しい」といったコメントをいただくこともあります。
<DINETTEのマーケティング戦略についてもっと知りたい方はこちら> D2Cは原価度外視の初期投資がカギ。DINETTE尾崎氏が語る新しいコスメブランドの形とは?
-村岡氏:ファンの方も自分も「企業活動」に協力しているという意識になるんですね。 またDINETTEさんはインフルエンサーさんの巻き込み方やプロダクトを出された時の売り上げの初速の速さが特徴的ですよね。
尾崎氏: DINETTEを立ち上げた当初、メディアに広告出稿をいただいているクライアントさんからの「サンプリングをしたい」といったニーズに対応するために、メディアに美容インフルエンサーさんを集め始めました。
現在はこの「DINETTE GIRLS」と呼ばれるインフルエンサーの方達は1,000人以上いらっしゃいます。ブランドを立ち上げた時もDINETTE GIRLSのみなさんにはご協力をいただき、プロダクトを試した感想を発売と同時にご自身のSNSで発信していただきました。そのおかげで、プロダクトを販売した初期の段階でしっかりと売り上げを作ることができました。
-村岡氏:僕自身ずっとSNSの業界におりまして、お客様からはソーシャルメディアが生む付加価値や、その手段についてのご質問をいただくことがあります。ただ、尾崎さんのお話をうかがうと、そもそもSNSを活用する施策自体をマストで投資するものとして取り組まれていて、かつその投資が広告ではない獲得の費用に転換されていっているなと感じます。
尾崎氏: これは私の世代だからなのかもしれませんが、Instagramを活用したPRは当たり前だと思っています。逆にSNSを活用せずにどんな施策をすればいいの?という意識が強いのかもしれませんね。
コミュニティを通じて顧客はサポーター的立ち位置に!ベースフードのマーケティング戦略 -村岡氏:これまでは商品開発やブランド初期の段階でファンを巻き込んでいきましょうというお話をうかがってきました。その次のポイントとしてどのようにお客様の声を聞いていけばよいのかということになるかなと思いますが、このあたりベースフードさんは「ベースフードラボ」という面白いお取り組みをされていますね。
斎藤氏: ありがとうございます。ベースフードでは、「ベースフードラボ」というコミュニティサイトを運営しており、そこで定期購入者の皆さんに日々のベースフードを使った料理などを投稿してもらっています。
ベースフードは新しい商品なので、まだ使い方がわからない方も多くいらっしゃいます。そこで、食べ方のアイデアやアレンジレシピなど、実際に食べている方のリアルな利用シーンを伝えることが大切と考え、SNSやコミュニティサイトでの投稿を促す施策に力をいれています。
「ベースフードラボ」は現在、定期購入のお客様向けにアプリの形で提供しており、およそ10%くらいの方にご登録いただいています。
-村岡氏:定期購入者の10%が登録しているんですか?
斎藤氏: はい。今後人数も増やしていきたいです。このコミュニティサイトの良いところは、お客様同士の、自然な会話を知ることができる点です。利用はユーザーに限定されていますので、コミュニティの中では安心してBASE FOODについてお話いただけています。
またご自身のSNSアカウントでは投稿を迷うようなあまりお洒落ではない食べ方も発信していただいています。例えば、BASE FOODの麺にめんつゆをかけてそのまま食べる、といった食べ方はちょっとInstagramでは投稿できないけど、コミュニティでは発信できるという方もいらっしゃいます。
そうした飾らない投稿には共感も多く寄せられていまして、お客様のよりリアルな商品利用シーンを知ることができています。
-村岡氏:なるほど!
斎藤氏: もう一つ、これをやって良かったことは顔の見えるコアユーザーのリストを社内に作れたことですね。弊社はPRにも力を入れていますが、取材を受けるときに定期購入者の方の話を聞かせてくださいと言われるケースが多いんです。
例えばママ向けのメディアに取り上げていただく時には、我々はお子様がいらしてすぐ取材のご依頼ができるお客様を思い浮かべることができます。柔軟な取材対応ができるようになったのもコミュニティサイトや、リアルでのイベントなどを通じてお客様と直接繋がっているからだと感じます。
-村岡氏:最初はお客様のコミュニケーション活性化やレビュー活用を目的としていたのが、今はコミュニティに参加しているお客様が自社のPRに協力してくれているサポーターのような立ち位置になっているんですね。
斎藤氏: サポーター的な立ち位置というのはその通りだと思います。新商品を試食してもらいフィードバックをもらったり、新サービスをいち早くご案内してどうやって広めていくかを相談したり、まさに「laboratory(=研究所)」のように使っています。
昨年からはじめたベースフードの「オフィスプラン」サービスもコミュニティのメンバーが自分の会社に導入してくれその反応を元にチューニングを加えてから正式にリリースしました。これからさらに活用を進めていきたいです。
-村岡氏:なるほど。自分に置き換えて考えると、自分の会社に普段自分が食べているものを推奨するのは決してハードルが低いことじゃないですよね。それができるのは、単純に「美味しいパン」「美味しい麺」というだけではなく、BASE FOODのコンセプトや考え方に強く共感される気持ちによってなのかなと思いました。
斎藤氏: 有難うございます。商品だけではなく、我々のことも理解していただくことはとても大切だと考えています。オフィスでの試食会や定期購入者向けのパーティに参加してもらったりしてBASE FOODについてもっと知っていただきたいと思います。
後半へ続く:MEJ、DINETTE、BASE FOODが語る、D2Cのマーケティングにおいて顧客との接点がもたらす価値とは【D2C最前線 イベントレポート/セッション2・後編】
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