ここ数年、「サブスクリプション」と呼ばれるビジネスモデルが急速に進化し、脚光を浴びています。しかしながら、顧客と繋がり続けるこのビジネスモデルには、新たなマーケティングの考え方が必要とされており、まだ正解の型がない状態です。

こうした背景の中、アライドアーキテクツでは2019年10月31日(木)に「サブスクサミット2019」を開催。当日は、業界のリーディングカンパニーをゲストに招き、豪華なモデレーター陣と共にトークセッションを行いました。本記事は、その一部を抜粋したイベントレポートです。
●登壇者紹介
〈モデレーター〉
W ventures株式会社 東 明宏 ⽒
〈パネリスト〉(五十音順)
株式会社クラス 久保 裕丈 氏
オイシックス・ラ・大地株式会社 白石 夏輝 氏
アイロボットジャパン合同会社 山田 毅 氏

なぜ今、改めて「顧客体験」が重要視されているのか

東氏:まず1つ目は「なぜ今、顧客体験が重要なのか」というテーマでお話を伺いたいと思います。「顧客体験」という言葉は以前からありましたが、今、具体的にどのような変化が起きているのでしょうか。白石さんは、顧客体験に関する時代の変化を感じていらっしゃいますか?

東 明宏 氏
W ventures株式会社 代表パートナー
2012年よりグロービス・キャピタル・パートナーズにてベンチャー投資に従事。主な投資実績としてはエブリー、クリーマ、リノべる、イタンジ、ホープ、ルートレックネットワークス、アソビュー、ランサーズ等がある。 2017年Forbesが発表した「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家BEST10」でランキングされる。日本ベンチャーキャピタル協会「Most Valuable Young VC賞」、Japan VentureAward2017「ベンチャーキャピタリスト奨励賞」等受賞。 それ以前は、グリー株式会社にてプラットフォーム事業の立ち上げ/ゲーム会社への投資、セプテーニ・ホールディングスにて子会社役員を務めた。 2019年4月より現職。

 
白石氏:オイシックスの白石と申します。僕はいつの時代でも、お客様の「良いモノを使いたい」「価値のあるモノを使いたい」という心理は変わらないと思っています。もちろん求められるモノは変化するのですが、その価値感や選択基準の変化はあまり感じません。唯一変化を感じるとしたら、お客様がどんどん忙しくなっていることではないでしょうか。
例えばオイシックスでは「キットオイシックス」と呼ばれる、20分でその日の晩ご飯が完成する商品を販売していますが、この商品を開発した背景も「お客様の忙しさ」が関係しています。
今までは旦那さんが仕事をして、奥さんが家事をするスタイルが一般的な家庭のイメージだったと思うのですが、共働き家庭がどんどん増え、家事にかける時間が短くなっていますよね。共働きになることで、スーパーに買い物に行き、食材を1から調理することができなくなってきました。
そこで、オイシックスがミールキットを作ることで家庭の調理時間を短縮し、その分お客様が時間を自由に使えるようになれればいいなと思ったんです。
 

東氏:最近はミールキットの販売に力を入れていらっしゃるんですよね。具体的に、どのような顧客体験を提供されているのでしょうか?

白石氏:ミールキットも色んなプレイヤーがいて、色んな価値訴求があります。一般的には「時短」が主な顧客体験なのですが、実は「袋を開けて炒めるだけで料理が出来上がる」という体験はお客様に中々受け入れられにくいものなんです。
これはなぜかというと、日本の古き良き価値観から「簡単すぎるミールキット=料理をサボっている」という感覚を与えてしまうからです。なので、オイシックスのミールキットでは、献立はオイシックスが考えて材料も揃えるから、葉物野菜をカットしたり簡単な調理はお客様がやってくださいと、抜くところは抜くけど大事にしたいところは大事にしてもらうような商品になっています。
白石 夏輝 氏
オイシックス・ラ・大地株式会社 CXO 兼 OisixEC事業本部 副本部長
新卒で入社し、プロモーションチーム等での経験を経て、5年経った現在はCXO(Chief Experience Officer)として、定期宅配サービス「Oisix」の顧客体験全体の設計を担当。

 

東氏:ありがとうございます。山田さんは顧客体験についてどのようにお考えでしょうか?

山田氏:ロボット掃除機の「ルンバ」や床拭きロボット「ブラーバ」を扱っている、アイロボットジャパンの山田と申します。
日本人の生活はまだまだロボットには懐疑的で「そもそも数万円のロボットの値段が高く感じる」「自分の手で掃除しないと何となく気持ち悪さを感じる」などのお声がある状態です。
なので、まずはロボットを月額で試していただき、気に入らなかったら返品してもらう、そんなサブスクリプションサービスがあれば、日本のお客様のニーズに合うのではないだろうかと考えました。そしてその先の顧客体験としては、アイロボットが掃除を代わることで、空いた時間を有意義に使っていただけたらと考えています。
お客様がサービスを使うことでどういう体験をして、その体験を更にどういう風にしたいのか。やっぱり、顧客体験をしっかり考えなければ、お客様に寄り添うことはできないのではないでしょうか。結局は、顧客体験を重要視することがお客様のためになりますし、ビジネスの成功の鍵になると思います。
山田 毅 氏
アイロボットジャパン合同会社 マーケティング本部 本部長
2001年松下電器産業(現パナソニック)へ入社。2015年米アイロボット・コーポレイション入社。2017年マーケティング本部長に就任しプロダクトマーケティング部、マーケティングコミュニケーション部、ビジュアルマーチャンダイジング部を統括し日本におけるロボット掃除機「ルンバ」ならびに床拭きロボット「ブラーバ」の製品のマーケティングならびにアイロボットのブランドコミュニケーションを統括している。

 

顧客体験を「ユーザーインタビュー」と「NPS」でトラッキングする

東氏:次に、顧客体験をどのように追跡しているのかを聞かせてください。白石さんはいかがですか?

白石氏:僕たちは、とにかく直接お客様に会いに行きます。もちろんデータも全部トラッキングはしているのですが、その裏の「何でそういう行動とったんだろう?」などの行動理由はデータだけだと中々分からないので、分からないところをいかにインタビューで深く掘っていけるかを大事にしていますね。
例えば、サービスの利用をやめてしまう人がいたら、これからやめてしまう人数を減らすために「どんな体験を失くしたらいいか」を見つけたいので、サービスの利用をやめた人たちの話をたくさん聞くんですよ。「オイシックスを使わなくなったのはなぜですか?」「どういうキッカケがあったんですか?」と。
そこから、話に出てきた「やめるキッカケとなった出来事の発生率」を下げていく努力をします。退会の中で、退会を招く出来事をどれだけ減らしていけるかを日々積み重ねていきます。そのためのユーザーインタビューです。
 

東氏:ありがとうございます。久保さんは、顧客体験をどのように追っているのでしょうか?

久保氏:家具のサブスプリクションサービス「CLAS」を運営しております久保と申します。当然、各部門の数字はウォッチしていますが、僕は売上げやCVRなどの数字について口を出すことはあまりありません。その代わり、全社に「NPS(Net Promoter Score)は全員必ず見てほしい」という話をしています。ごくごく一般的ではありますが、顧客のロイヤリティなどをきちんと計るためには、NPSは凄く大事な指標なんです。
では、なぜ売上げではなくNPSを重視するかというと、理由は簡単です。顧客体験よりも先に売上げを重視すると、サービスが間違った方向にいく可能性があるからです。
もちろん売上げを重視すると、短期的には利益は出るかもしれませんが、長期的に見ると顧客体験を損なうような意思決定してしまうことがあると思っています。NPSさえきちんと高い数字を保ち続けられれば、最終的に売上げはついてくるでしょう。
NPSとるタイミングは、例えば配送が完了してから1週間後とか、何なら解約されてしまうタイミングでとったり。あとは解約半年後など、マイルストーンをおいて数値を見ています。
久保 裕丈 氏
株式会社クラス 代表取締役社長
海城高校から東京大学、同大学院を経て、外資系コンサルティング企業のA.T.カーニーへ入社。その後、起業の道に進みファッション通販サイト『ミューズコー(MUSE & Co.)』を立ち上げ。2015年に売却。Amazonが配信する恋愛リアリティー番組『バチェラージャパン』の初代バチェラー。現在は月々400円から使える家具シェアリングサービスを提供するCLAS(クラス)の代表取締役。

 

サブスクの根幹となる「プライシング」を考える

東氏:最後に、サービスの月額料金をどのように決めているのかをお伺いします。久保さん、お願いします。

久保氏:僕は、プライシングは「サブスクの根幹」だと思っています。言ってしまえば、プライシングによってスケールするスピードが左右されると言っても過言ではありません。
特に、インテリアや家電などのハード系の商品は「長く使うのであれば買ったほうが絶対お得でしょ」という意見がよくあります。ですが僕たちは基本的に「売り切りの商売」はやっていないので、長く使ってくださるお客様には「長期利用に対する対価を用意するかどうか」を、プライシングを決めるときに気をつけています。
例えば、1脚500円の椅子を2年以上使ってくれたお客様には、3年目からは月額が半額になって、4年目からは80%オフになる、最終的には1脚月額100円ちょっとで使える設定にしています。家具を捨てるコストなどを考えたときに「CLASを使い続けていたほうがライフタイムで見て経済的にお得だよ」と訴求ができるプライシングにしているんです。
 

東氏:ありがとうございます。アイロボットさんはどうプライシングしているのですか?

山田氏:家電の場合は全国の家電量販店で同じものが売られていますので、店舗との価格バランスに気をつけています。また、アイロボットのサービスで提供しているものは、「単なるお掃除ロボットの36回払い」ではなくて、「返品ができる」「保障がついている」などの将来発生し得るリスクへの担保です。
サービスを利用せずに家電量販店で商品を買ってしまうと受けられない保障があるので、将来に対するリスクをどうお客さんが感じるのかを、プライシングに反映しています。
なので、家電量販店で36回払いで商品を買うことと、アイロボットのサブスクサービスを使うこと、サービスを利用する方が若干価格は高いですが、どちらがお得に感じるかはお客様が何を求めるかなんですよ。ある程度、サービス内容とプライシングのバランスがあるのかなと思います。
白石氏:なるほど。プライシングを他社よりも高く設定した場合、独自性を重視するようになるんですよね。むしろ、価格を少し高く設定したとしても「いかに価値を出していくか」をこだわって考えていく方が、他社にはできないような、自分たちがトップランナーになれる領域をどんどん作れるんじゃないかなと思います。
東氏:今回のお話を聞いて私自身がすごく勉強になりました。具体的なお話をしてくださり、本当にありがとうございました。

以上、「サブスクサミット2019 【Session 1】マーケティング成果に繋げる顧客体験の設計」のレポートをお届けしました。「マーケティング成果に繋げたい」と、サブスクサービスに奮闘する企業様にとって、良いヒントとなれば幸いです。
 
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