ここ数年、「サブスクリプション」と呼ばれるビジネスモデルが急速に進化し、脚光を浴びています。しかしながら、顧客と繋がり続けるこのビジネスモデルには、新たなマーケティングの考え方が必要とされており、まだ正解の型がない状態です。

こうした背景の中、アライドアーキテクツでは2019年10月31日(木)に「サブスクサミット2019」を開催。当日は、業界のリーディングカンパニーをゲストに招き「サブスクモデルにおける広告戦略」についてトークセッションを行いました。本記事は、その一部を抜粋したイベントレポートです。
●登壇者紹介
〈パネリスト〉(五十音順)
BASE FOOD Inc. 斎藤 竜太 氏
ストライプインターナショナル株式会社 澤田 昌紀 氏
株式会社お金のデザイン  馬場 康次 氏
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ 松尾 慎治 氏

学習サブスクサービス「スタディサプリ」は、テレビCMを科学する

-本日は4社さんの広告戦略について、リアルな姿をお話いただけたらと思います。早速ですが、スタディサプリの松尾さんからお願いします。

松尾氏:はい。リクルートでスタディサプリを担当している松尾と申します。スタディサプリはオンラインで勉強ができるサービスでして、元々は高校生の大学受験向けに立ち上げられたものになります。現在は、下は小学校4年生から上は社会人の英語学習まで対応しています。
松尾 慎治 氏
株式会社リクルートマーケティングパートナーズ オンラインラーニング事業推進室 マーケティング部 部長
2006年リクルート入社。HotPepperでのドブ板営業を経て、インターネットマーケティング局にてサイト/アプリ開発・Webマーケ・市場調査/ログデータ分析等に従事。じゃらん、SUUMO、Hotpepper、リクルートエージェントなど大小百数中案件に従事。2011年よりスタディサプリの新規事業立ち上げに携わり、現在はスタディサプリの新規会員獲得をミッションに、プロモーション・カスタマーサービス・法人営業などの領域を担当。

 
松尾氏:スタディサプリは、広告費の過半数をマス広告「テレビCM」に使用していて、認知からサブスクの登録までの費用対効果を実感した上で、力を入れています。
ただ、紆余曲折があり、最初は「プロダクトは良いものだけど認知がないよね」と認知率を上げるためのインパクト重視のテレビCMなど色々な施策をやり、「認知率」という数字自体を上げることには成功しました。ですが、認知率が上がっても会員が増えない状態が続いたんです。
その辺りで「利用意向率」がポイントになることに気付きまして。まずはオンラインで勉強できること自体を「いいね!」と思っていただけないと、いくら認知していても、会員にはなってもらえないですよね。ですので、テレビCMの目的を、単なる認知獲得ではなく利用意向の獲得に変え、どんなクリエイティブにすれば利用意向を高められるかを工夫しています
 
-ブランドメッセージを伝えるために、テレビCMではどのようなことを訴求されたんですか?
松尾氏:利用意向の獲得を主目的とした新しいテレビCMでは「神授業」という内容を流しました。スタディサプリの魅力は「カリスマ先生の授業をいつでもどこでも安く見られる」ことなので、それをそのままテレビCMで伝えることに力を入れました。そしたら会員数は2〜3倍に爆増して、CPAも2分の1、3分の1になったんです。
「こんな便利なサービスがリーズナブルに使えるって便利だね」と、ある種の顧客体験を理解していただけたということで、CPAが見合ったのでしょう。ウェブ広告と対等にテレビCMが扱えるようになったので、僕たちは今、とにかくテレビCMを磨いていこうとしています。
 

月額39円のキャンペーンで入会数が約10倍に!ファッションサブスクサービスの「メチャカリ」

澤田氏:月額制のファッションサブスクリプションサービスのメチャカリを運営するストライプインターナショナルの澤田と申します。メチャカリは2015年から始まり、月額5,800円をお支払いしていただくと、洋服が1度に3着まで、月に何度でも借り放題になるサービスです。
澤田 昌紀 氏
ストライプインターナショナル株式会社 グローバルファッションEC本部 メチャカリ部 部長
アパレル企業のノーウェアにて、「A BATHING APE」の販売・企画・生産に関わったのち、ゴルフダイジェスト・オンラインへ。2013年にストライプインターナショナルに入社し、EC事業担当を経て2015年にファッションサブスクリプションサービス「メチャカリ」を立ち上げ、現職。

 
-メチャカリさんは服好きな方をターゲットにしたサービスなのでしょうか?
澤田氏:元々は洋服が好きな若年層をターゲットにしていたのですが、実際にサービスを始めてみると洋服に貪欲ではない方が多く利用することが分かりました。どちらかというとめんどくさがりやさんだったり、クローゼットをパンパンにしたくないミニマリストの方、忙しく働く女性など、そういった方々に非常に支持されています。
 
-メチャカリさんもマス広告をされていますよね。実績をお伺いしてもよろしいでしょうか?
澤田氏:はい。今まさにテレビCMを放送していまして、現在実施中の「3ヶ月間月額39円キャンペーン」を訴求しています。サービス開始以降、毎年テレビCMは放送していまして、「ファッションレンタルというカテゴリの認知」と「メチャカリのサービス名認知」の2つに指標を置いています。
これらの認知が低い状態ですと、衝撃的な価格であるため「広告が怪しい」と思われてしまい、CPAが悪化してしまう場合があるんですよ。これに対して、認知が高まっていけばCPAはどんどん良化していきます。このような取り組みの甲斐あって、今回のテレビCMでは、放送前と比較して1日あたりの入会数が約10倍に増えている状態ですね。
 
-キャンペーンで獲得したユーザーが今後どのくらいサービスを継続するかが大事だと思うのですが、そのあたりはどのようにお考えですか?
澤田氏:3ヶ月継続していただけると、服を借りることが習慣化し4ヶ月目以降の解約率が低くなることが解っていたため、3ヶ月間月額39円のキャンペーンを実施しました。無料にしても良かったのですが、以前に1ヶ月間の無料体験を実施していた際、アクティブ化せず解約してしまうユーザーが一定数いました。これに対し、今回は月額39円と少額ではあるものの、支払い意欲のあるユーザーです。また、返却手数料は別途かかるため、利用の習慣化とサブスクリプション決済の習慣化により、継続率を高めることを目的としています。
 

SNSやアンバサダーを活用した「ベースフード」のマーケティング施策

斎藤氏:ベースフードの斎藤と申します。「主食をイノベーションして健康をあたりまえに」というミッションを掲げて2017年からベースフードを販売開始してから2年半になります。ベースフードは1食に必要な栄養が全て取れる「完全栄養の主食」を、パンと麺の2種類用意しておりまして、毎月ご自宅にお届けするサービスです。
斎藤 竜太 氏
BASE FOOD Inc. CMO
一橋大学卒。ユニリーバ・ジャパンに入社しPOSデータ分析に基づくリテール向けのマーケティング、米Walmart社に出向しヘアケアのカテゴリー戦略立案や各国のビジネス開発を担当。その後、リノべる株式会社にて、出店戦略やCRM構築、MA導入に従事。17年5月より現職。創業メンバーとして、webサイト運営から広告宣伝、CRM、PR、外部とのアライアンスなど、事業成長のためのマーケティング活動を統括。

 

-忙しいビジネスマンや、夜はまた栄養価が高そうな御食事をされている方がターゲットということですね。広告はどのように工夫されているのですか?

斎藤氏:広告予算の配分は、SNS広告やYouTubeなどのインフルエンサーへの依頼が7割で、他の3割はPRの取り組みなどに使っています。ユーザーに長く続けてもらうために、「食べ方が分からない」「価格が高く感じる」などの離脱要因を最初から拭う施策を考えて行なっていますね。
ワークしたのは「SNSで1ヶ月間公開チュートリアルをやろう」という企画で、ベースフードを1ヶ月間食べ、それをSNSに上げ続けようというプログラムです。毎日食べることを前提として購入してもらうので、この企画から入ってきた人の定期転換率は通常の2倍以上高かったです。また商品単体で購入するよりも価格を安く感じてもらえたり、ハッシュタグで投稿を見るとSNSにレシピがたくさんあるので食べ方もすぐに分かる。様々な良いことがありました。
このように、定期購入を前提とした新規獲得はチュートリアルが大事なので、「購入した最初の1ヶ月間体験をデザインすること」を気をつけています。
 

-SNS広告もすごくスケールされていると思うのですが、どういう風にメッセージを訴求されているのですか?

斎藤氏:今までで一番CPAが良かったのは、ラーメン屋さんとのコラボで始めた「ベースラーメン」でした。PR感のあるクリエイティブは、SNSのフィードにも馴染みやすく、新規の方にも商品を買ってもらえやすかったようです。ユーザーのフェイスブックやインスタグラムの投稿をそのまま流用してクリエイティブに使用させていただいたり、動画を活用したりすると、効果が良かったです。
 

資産運用のロボアドバイザー「THEO(テオ)」は、「お金を預けても大丈夫」という信頼づくりに広告を活用

馬場氏:資産運用のロボアドバイザーTHEOを提供している株式会社お金のデザインの馬場と申します。THEOは、一部AIを使ったロボアドバイザーで資産運用をしています。7割くらいの方が、1万円、3万円、と毎月積み立て投資をしてくださるので、サブスクリプションのモデルに比較的近いのかなと。私からは、テレビCMに代わる仕掛けとして何をやってきたのかをお話したいと思います。
馬場 康次 氏
株式会社お金のデザイン 執行役員CMO
早稲田大学法学部卒業。日本HP、イオン、マイクロソフト、グーグルで、マーケティング、ブランディング活動を牽引。グーグルでは、YouTubeの日本での立ち上げから「未来へのキオク」などのソーシャルプロジェクト、「Google さがそう」などのブランドキャンペーンを手がける。2015年9月お金のデザインに入社。2018年4月執行役員CMO就任。

 
馬場氏:まず、世の中に資産運用をしている方は20%くらいしかおらず、ほとんどの人が体験したことのない状態です。なので、多くの方は「資産運用はお金を持った一部の人がやること」「証券会社から良くない話をおすすめされるのではないか」などと、既存の金融に対して不信感を持っているのではないでしょうか。
そこで私たちは、まず第一に「今までの金融機関とは違うんです」「あなたに寄り添ったサービスです」と、サービスをアピールすることから始めました。広告予算の配分は、ベンチャー企業なのでデジタル広告が9割で、それにPRやSNSを絡めています。
珍しい施策でいうと、従業員が実際に毎月どのくらいTHEOにお金を積み立てて、どのくらい値動きしているかを全部公開する企画もやりました。今までの金融機関ではできなかったことですし、オープンにする正直さみたいなところで、とても共感を得ることができましたね。
そういう施策を積み重ねて、開始から3年半くらいで約7万7千人にTHEOを利用していただき、今では合計で500億くらいの金額を預かって資産運用をしています。
 

-ありがとうございます。お金をAIに預ける概念を変えなければいけないハードルを少しずつ越えているんですね。

馬場氏:そうですね。まず基本的に、知らないベンチャー企業に大事なお金を預けようとは思えないですから。まずは「この会社にお金を預けても大丈夫なんだ」という信頼環境を作っていくことをやっております。信頼が一番大事なので、今までの資産運用とは違う「顧客と寄り添ったサービスであること」を私たちがどうやって実証するか、ということで色々な施策を試しています。

以上、「サブスクサミット2019【Session 2】サブスクモデルにおける広告戦略」のレポートをお届けしました。KPIや予算の設計はもちろん、出稿メディアや生活者へのコミュニケーション手法まで、幅広くお話いただいた登壇4社様のリアルはいかがでしたか?サブスクサービスに奮闘する企業様にとって、良いヒントとなれば幸いです。
 
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